2011年9月18日日曜日

イギリス、ドイツの大手原発関連会社 撤退の動き


英のMOX工場閉鎖へ フクシマの影響

英中西部セラフィールドの原子力施設にあるプルサーマル発電用のプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料製造工場が近く閉鎖されることが3日、分かった。同工場を所有する英政府の外郭団体、原子力廃止措置機関(NDA)が明らかにした。
NDAは、福島第1原発事故の影響で、顧客である日本の電力会社が行うプルサーマル計画の先行きが不透明になったことを理由に挙げている。
NDAによると、同工場側と日本の電力会社各社との間で、将来の使用済み燃料の再利用とMOX燃料製造に関する大枠の合意があったが、特別な事情がある場合は合意を見直すことができるとの条項があるという。
同工場にとって現在は、日本の電力会社が唯一の顧客だった。NDAは日本側との詳しいやりとりは明らかにしていない。(ロンドン共同)
毎日新聞 2011年8月4日 1時01分

「ドイツの巨大メーカー、
   ジーメンス社が原発から撤退」

www.bbc.co.uk
German engineering giant Siemens is to withdraw 
from the nuclear industry following the Fukushima nuclear 
disaster, its chief executive says.


Foreign Media Analyst in Japanより

 
8月4日付けでわが国メディアは
NDA(英国原子力廃止措置機関:Nuclear Decommissioning Authority)
セラフィールドのモックス燃料工場を今後数ヶ月後に閉鎖する旨を発表したと報じた。

筆者は本年4月19日の本ブログで、

英国インディペンデント紙が英国のイングランドのカンブリアにある
セラフィールド再処理施設(Sellafield site)で格納されている
約60億ポンド(約8,280億円)に上る世界最大量のプルトニウム廃棄物(plutonium waste)の
振り分け計画や再処理工場の今後に関し、
日本の電力会社の放射能問題の慎重さにより脅かされている旨の4月11日付け記事を紹介した。

今回、英国政府の機関であるNDA(4月19日ブログの(note3)参照)が

同工場の閉鎖決定を行った背景には、


(1)わが国の原子力エネルギー政策上重要な点は、
2010年5月13日わが国の電力10社は英国で回収される
プルトニウムの将来のMOX燃料加工に関する全体的な枠組みの合意について


」(note1)を締結したにもかかわらず、
約半年後の2010年12月6日、
中部電力は「浜岡原子力発電所4号機におけるプルサーマル計画の延期について」を公表した点、


(2)英国がまさに日本の市場向けに莫大な投資をもって開発した
同工場の今後に対する財政面の危機感をいかに取扱うかという問題が政治的な問題としてあげられる。

今回のブログは、

工場閉鎖問題だけでなく、
英国の原子力政策(note2)そのものにかかわる動向を
NDAの声明内容そのものやインディペンデント紙の記事等をもとに紹介するものである。

1.NDAの声明の概要

 8月3日に公表されたものである。
従業員に対する雇用面の内容が中心で政府の原子力政策の今後を占うものではないが、
その背景にあるNDAの今後の経営戦略を垣間見ることは出来よう。

「2010年4月、

セラフィールド再処理工場(Sellafield MOX Plant:SMP)に関する民間ベースの契約が整った以降、
NDAは運用の工場ならびに投資金額に見合う価値を生み出すよう納税者たる国民にかわり、
そのモニタリングを保証してきた。
DNAの主たる任務は運用コストの最小化により納税者の負担を減らすべく
ビジネスとしての経営を監督することである。

NDAは日本の利用電力会社とともに取組むとともに、

3月の巨大地震以降、日本の核エネルギー産業への影響の観点から見たSMPの今後
ならびにSMP計画と関連する民間契約の好ましい結果等について見直してきた。

NDAの役員会は、

目下、日本の大地震およびその後の出来事による潜在的遅延に基づく商業ベースの
各種リスクの軽減について調査した結果、
英国の納税者が将来の財政負担を負わないことを保証するには
最も早い時期にSMPを閉鎖することが唯一の合理的な方法であると結論付けた。

SMPの閉鎖はSMPの業績向上に努めてきた従業員を反映したものではない。

NDAはセラフィールド社とともに今回の決定につき雇用への影響を最小化するために緊密に協力し、
今後数年間で策定予定の新セラフィールド計画において配置転換の可能性等を検討している。

NDAAは今後、

日本のプルトニウムの国際的に見た安全な保管、
これらのエネルギー資源の再使用に関し日本の発電所政策を支援すべく責任を持ったかたちで
日本の利用企業と議論を煮詰める予定である。

今回のNDAの閉鎖決定はSMP工場だけの問題であり、

別途政府と英国におけるモックス燃料の再使用およびプルトニウムの備蓄問題について協議をすすめている。」


2.インディペンデント紙他のメデイア情報



 セラフィールドのモックス燃料加工工場の閉鎖が7月25日に決定された。


これにより約600の従業員(note3)の職が失われる。
今回の工場閉鎖は直接的には日本の福島原発事故であり、
世界中上において原子力産業が閉鎖や再考が引き起きた。
しかし、このような動きは英国の新原子力発電政策とはかかわりあいはない。

同工場の従業員は、

7月25日朝にセラフィールドの複合施設の他の事業分野において
かなりの範囲で再雇用される旨説明を受けた。
完全に工場が閉鎖されるまでは数週間かかる。

1990年代の初めに西カンブリアのモックス燃料加工工場に

国民の税金を14億ポンド(約1,764億円)つぎ込んできた


同工場は英国政府が所有するNDAが運営するもので
福島原発を含む日本の電力会社を主要顧客として
民間契約(commercial arrangements)等にもとづき1996年に設立され、
2001年に操業を開始した

NDAは今回の閉鎖について

THORP再処理工場事故(2005年4月19日に起きたもので
前処理施設で放射性溶液の漏えい(INES)が発見され、
操業を停止した)の影響は否定した。


しかしTHORP工場はプルトニウムやウラニウムからなるモックス燃料を製造している

 NDAの最高経営責任者であるトニー・ファウンテン(Tony Fountain)
7月25日に従業員に対し、


「今回の工場閉鎖の理由は直接的には
日本で起きた津波や現在続いているエネルギー市場への影響であるが、
その結果我々はこの工場の顧客や資金源を持たなくなった」と説明した。

ファウンテンは、

同工場は納税者等から長年にわたり能力不足問題が指摘されてきた点を認めた。


また、近年の同工場を存続させる試みとして
日本の電力会社による核燃料の再利用ならびに
英国の優れた研究拠点への支援を検討していたが、
日本の原子力産業の危機によりこの路線計画はもはや現実的でなくなった

 中部電力が所有する浜岡原発は



最初のモックス燃料の引き受け手となる予定であったが、


現在は大規模な補強工事のため閉鎖中であり、


またモックス工場の製造物の50%の引き受けを予定していた東京電力は


まさに最も困難な課題に直面している。


日本の原子力産業は福島原発事故後においての回復しそうもないことは明らかとなったことから、


同の工場の未来計画についてはこの数ヶ月停滞したままである。

 NDAは、



セラフィールドのモックス燃料加工工場(SMP)による


将来の納税者の経済負担を回避するには早い時期に工場の閉鎖を実行することが


唯一の合理的な選択肢であると結論付けた。
英国政府は、セラフィールド工場の閉鎖は

英国において計画中の数箇所の新原発の建設には影響しないと主張している。
このような新たなモックス再処理工場の建設は
その莫大な費用と非経済性等から見て好ましくないことは明らかである。

しかし、

最近時の政府の諮問でも原子力産業の専門家が


電力会社がモックス工場の建設を望まないと指摘しているにもかかわらず、


新たなモックス利用型の工場の建設案を提示したままである。

別の疑問として

NDAがセラフィールド・モックス工場の閉鎖と同時に
THORP再処理工場を閉鎖するであろうかという問題である。


NDAはTHORP再処理工場の閉鎖については


THORP再処理工場は


他の核廃棄物からプルトニウムを製造するもので


2つの工場の問題は無関係であると述べている。
しかしながら、THORP再処理工場は

セラフィールド・モックス工場と同じ前提
すなわち原子炉で使用される再処理燃料の市場ニーズがあるというものであった。
その市場とは日本が唯一でかつ極めて小さな市場であり、
日本の原子力産業の終焉により完全に市場を閉鎖された。
 英国政府が計画している


新たな原子炉工場として「フランス電力公社(EDF)」(note4)や


ドイツの「ライン・ヴェストファーレン電力会社


(Rheinisch-Westfälisches Elektrizitätswerk AG:RWE)」(note5)等


EU各国の電力会社が英国内に計画しているものは


モックスやプルトニウムは使用しない




 この英国内で政府が
燃料としてモックスを使用する別の工場を建設するという政府案について、
原子力専門家は極めて懐疑的である。


モックス処理工場について数10億ポンドの税金を投入しても
その製品価値はほとんどかまったく市場を持たない
「無用の長物(another white elephant)」となろう。(以下、省略)

(note1) わが国のメディアが報じている日本の電力会社10社と

モックス燃料製造工場や
NDAとの将来の使用済燃料の利用とモックス燃料製造に関する大枠の合意をさす。

(note2)「 イギリスでは、

当初、軍事用プルトニウムの生産を目的に再処理開発を始めたが、


その後、
民間原子力発電計画に基づき発生する使用済み燃料の
処理、再処理施設を持たない国に対しての再処理請負へと転換してきた。
イギリスにおける最初の産業規模の使用済燃料の再処理施設として、
1952年にウインズケール(後に「セラフィールド」と改称)に
マグノックス炉の使用済燃料の再処理工場が運転を開始した
(1960年代から運転し30,000トン以上の処理実績を持つ)。


さらに同サイトに
改良型ガス炉(AGR)およびドイツ、日本等海外からの
受託軽水炉使用済燃料の処理を目的に
酸化物燃料用の大型工場(THORP)を建設し、
1992年2月に建設工事完了、
1994年3月に試験操業を開始、
1997年8月に全運転許可証を得た。
2005年4月1日から、原子力エネルギー法の改正により、
施設の運営責任は従来通りBNFL内の廃止措置部門BNGにあるものの、
原子力デコミッショニング機構(NDA)に
マグノックス炉の廃止措置、
THORP再処理工場、
MOX加工工場(SMP)、
廃棄物工場、などの資産と施設の廃止にかかる費用、
廃棄物管理に関する費用などの債務処理が移管されている。
」 (財)高度情報科学技術研究機構
サイト「セラフィールド再処理工場の技術開発と現状 (14-05-01-17)」から一部抜粋引用。
(note3)

8月5日朝日新聞朝刊の記事は800人が解雇とあるが600人の誤りである。
(note4)
フランス電力公社の活動概要については社団法人「海外電力調査会」の解説等が分かりやすい。

(note5) 

RWEなどドイツの電気事業および
原子力産業の解説は(財)高度情報科学技術研究機構の説明に詳しい。

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