2011年10月18日火曜日

除染の現実と模索


風知草:除染の現実と模索=山田孝男

木村真三(44)は原発被災地の「赤ひげ」である。
福島の高線量地域に住んで住民の相談に乗り、除染の先頭に立つ。
独協医大准教授(放射線衛生学、医学博士)。
厚生労働省所管法人の研究者だったが、原発禍の初動調査を制止され、即刻辞任。3月15日から現地に入り浸り、実地調査にもとづいて放射能汚染地図を作製、住民支援に駆け回ってきた。
その活躍はNHK教育テレビのETV特集で3回にわたって紹介され、大反響を巻き起こした。知る人ぞ知る。
その木村にして「除染は困難を極める」と言う。
特別な道具を使わず、個人で家屋をまる2日間、必死で除染しても、放射線量は半分程度にしか下がらない
ホットエリア(局部的に線量の高い地域)では、一つの家を除染するのに、半径100メートルを除染しなければ(自然状態に近い)0・1マイクロシーベルト(毎時)まで下げられない。現実には不可能に近いと思います
首相が所信表明で「全力で取り組む」決意を示し、
原発事故担当相が「経済性は度外視してでもやる」とフォローした除染の、それが現実だ。
現実を知るには、まず放射線量を測らなければならない。先日、福島市を往復した際、出発時に「0」マイクロシーベルトだった筆者の線量計の目盛りが、1泊して帰宅すると「2」マイクロシーベルト。さらに3日間、自室に放置したら「6」マイクロシーベルトへハネ上がった。
「東京も高いですね」と高名な専門家に尋ねたら、こんなご教示をいただいた。「自然放射線が毎時0・05マイクロシーベルトあるから当たり前。福島滞在24時間で2マイクロシーベルトはふつうです」
筆者が携行したのは、身につけて外部被ばくの蓄積を見る線量計。大気中の瞬間線量を測る測定器とは機能が違う。国内製造大手・日立アロカメディカル社によれば、売れ筋の線量計が約3万円。測定器だと24・5万円。ともに品薄で、測定器は数カ月待ちだという。
「震災前は年に数百個だったものが、今は毎月400個から500個出ます」(同社)。全国、とくに関東圏からの問い合わせが多いそうだ。
さもありなん。近ごろ首都圏は高線量スポットと除染の話題でもちきりだから。
赤ひげ・木村はこう言っている。「むやみにビビる必要はないが、正しい防御は必要。正しく怖がるべきです
この夏、京都五山の送り火から、セシウムのついた陸前高田の松材が締め出される騒ぎがあった。これなどビビり過ぎの典型だと木村は言う。
原発震災直後、濃密な放射能雲が列島をおおった。それ以前の核実験やチェルノブイリも含め、日本列島は既に汚染されている。その濃度に比べれば、松の中のセシウムなど何十万分の1に過ぎない……。
とはいえ、過度の被ばくが遺伝子を傷つけ、種の保存を脅かすという基本は変わらない。食品からの内部被ばくの制御も課題だ。正しい防御とは、正しい除染とは何か--。
その答えを求め、木村はいま、ウクライナ・ジトーミル州のナロジチ地区に入っている。通算15回目になるチェルノブイリ汚染地域の調査だ。
脱原発か、原発維持かを問わず、人類は、既に飛散した放射性物質と共存していかなければならない。それは決意表明や予算づけだけでは解決しえない難問であることを、理解しなければなるまい。(敬称略)(毎週月曜日掲載)
毎日新聞 2011年10月17日 東京朝刊

除染地区拡大で天文学的数字の費用 国の負担「100兆円」超える恐れも

J-CASTニュース 10月4日(火)19時32分配信
除染地区拡大で天文学的数字の費用 国の負担「100兆円」超える恐れも
拡大写真
「年間1ミリシーベルト以上」は広範囲に及ぶ(文部科学省「航空モニタリング」より) 
東京電力福島第1原発の事故で拡散した放射性物質の除染について、
政府は年間追加被ばく線量が1ミリシーベルト以上、
5ミリシーベルト未満の地域も国の責任で行うとした。




当初、政府は1ミリ以上5ミリシーベルト未満の場所は線量の高い場所を
スポット的に除染することを念頭にしていたが、
対象地域が大幅に広がることになる。
福島、栃木、群馬の3県をまるごと覆いそうな面積で、
財政支援が想定外の膨大な金額に上る恐れが現実的になってきた。


■毎時0.1マイクロシーベルト以下は会津の一部しかない


1~5ミリシーベルトの地域の除染は、
細野豪志環境相兼原発事故担当相が2011年10月2日、
福島県の佐藤雄平知事に「国の責任でやる」と財政支援を約束したものだ。
その数日前、環境省は2012年度予算の概算要求に、
除染や放射能汚染の廃棄物処理として4500億円以上の金額を盛り込んだ。
だが1~5ミリシーベルト地域が全面的に加われば、負担額の拡大は免れない。


福島県内で、年間1ミリシーベルト以上に該当する地域はどれほどあるのか。
県の環境回復チームに尋ねると、例えば同じ学校内でも校庭と側溝、草木のある場所では線量が違うことから、
「現在精査している最中」だという。


そこで、文部科学省が9月12日に公表した航空モニタリングの測定結果を目安とした。
地表面から1メートルの高さの空間線量率のデータを見ると、毎時の放射線量が示されている。
毎時0.114マイクロシーベルトを浴び続けると年間1ミリシーベルトに達する計算になるが、
地図上で毎時0.1マイクロシーベルト以下の地域は、主に会津地方の一部に見られるに過ぎない。
ただし文科省に聞いても、面積の具体的な数字までは算出していないという。


航空モニタリングはこれまで東北と関東の計8県で実施されているが、
栃木県北部や群馬県北部、埼玉県西部、茨城県南部、千葉県北部で
いずれも毎時0.1マイクロシーベルトを超えている地域が多く見られる。
大まかな目算だが、該当地域をすべて合わせると福島、栃木、群馬の3県をまるごと覆いそうな面積に見える。
細野環境・原発相は10月4日、福島県以外でも年間1ミリシーベルト以上であれば除染の際の支援をすると表明した。
3県の面積の合計は約2万5700平方キロメートル。これだけの土地を除染するとなれば、
費用も年月も相当かかることは間違いない。


■福島の「年5ミリシーベルト以上地域」だけで118兆円?


経済学者の池田信夫氏はブログで、福島県内で「年間5ミリシーベルト以上」に該当する地域が県全体の17.5%に当たるとした。計算すると約2412平方キロメートルだ。さらに池田氏は、かつて公害病のひとつ「イタイイタイ病」で問題となったカドミウムの除染で投じられた金額を適用した。政府が負担したのは、1500~1600ヘクタールで8000億円と言われている。これを当てはめると、除染費用は118兆円になるという。


これが「年間1ミリシーベルト以上」となれば膨大な金額に上る。文科省の航空機モニタリングで、確実に年間1ミリシーベルトに達する「毎時0.2マイクロシーベルト」以上に色分けされた地域を見ると、福島県1県分に相当しそうだ。県の総面積は1万3782平方キロメートル。これにカドミウム除染の費用をかけると、約689兆円となった。さらに「毎時0.1マイクロシーベルト」なら、該当面積は先述の通り福島、栃木、群馬3県分にも達し、その額は実に1285兆円。


■「0.5マイクロシーベルト以下にするのは非常に難しい」


もちろん、人の住んでいない山間部まで除染するのかどうかも不明だし、カドミウム除染の費用がそのまま今回の原発事故に伴う除染の金額と一致するわけでもない。航空モニタリングによる線量マップも参考値に過ぎない。それでも費用が天文学的数字になるのは確実で、池田氏がブログで「年間5ミリシーベルトの除染は財政的に不可能であり、1ミリシーベルト以上は空想の世界」と表現したのもうなずける。


一口に除染と言っても、地面の表土を削り取るだけではない。建物であれば壁や屋根の洗浄と拭きとり、道路や公園なら側溝にたまった泥や枯葉の除去、森林の場合は樹木の枝切りや伐採と作業は多岐にわたる。東京大学アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授は、2011年7月27日に開かれた衆院厚生労働委員会でこの点を指摘し、自身の手による除染の実体験を基に「(毎時)0.5マイクロシーベルト以下にするのは非常に難しい」と話した。


児玉教授はさらに、除染に民間の技術を結集して「除染研究センター」を設置しないと、「何十兆円という国費がかかるのを、利権がらみの公共事業になりかねない」と、怒気を含んだ口調で話した。だがそれ以前に、今のままでは「何十兆円」で済まない事態にすら陥りかねない。

福島市内で高セシウム=3カ月前より濃度上昇地点も-NGO

東京電力福島第1原発事故の影響を調べている
NGO「FoE Japan」などが5日、
東京都千代田区永田町の参院議員会館で会見し、
福島市内で高濃度のセシウムに汚染された地域があることを明らかにした。
NGOによると、
調査は9月14日に実施。
神戸大大学院の山内知也教授(放射線工学)に依頼し、
福島市小倉寺と渡利の計5カ所で土壌のサンプル調査を行った。
この結果、
最も濃度が高かった地点では
1キロ当たりセシウム134と137が計30万ベクレルを超えた
3カ月前と比較して濃度が5倍以上になっている場所や、
学童保育が行われている建物の近くで15万ベクレルを超えていたケースもあった
山内教授らの調査では既に、
これらの地域では放射線量が高い「ホットスポット」があることが分かっている。
同教授は「時間がたってセシウムの濃縮が進み、
汚染が進行している地域もある」と指摘。
「泥を除いたり、水で洗い流したりするだけでは線量が下がらない場所もある。
子どもと妊婦を避難させた上で、
アスファルトやコンクリートの除去なども考える必要がある」と訴えた。
(2011/10/05-12:38)


放射能汚染レベル調査結果報告書 渡利地域における除染の限界


2ページ 概要

 
概要:2011年9月14日、福島市渡利地区において空間線量の計測を実施した。
「除染」が行われたということであったが、6月の調査において最も高い線量を記録した側溝内堆積物には手が付けられておらず、地表面における空間線量は当時の2倍に上昇していた。「除染」のモデル地区としてある通学路がその対象になったが(「除染モデル事業実施区域」)、その報告によると平均して7割程度(約68%)にしか下がっておらず、空間線量も1~2 µSv/hに高止まりしている。今回の調査においてもその通学路の周辺において20 µSv/hを超える非常に高い線量が地表面で計測された。コンクリートやそれに類する屋根の汚染は高圧水洗浄によっても除去できておらず、住宅室内における高い線量の原因になっている。除染の対象にはされなかった地域の水路や空き地、神社、個人宅地内の庭で高い線量が計測され、最も高い線量は地表で20 µSv/hを記録した。本来の意味での除染はできていない

10~11ページ まとめ

・6月の調査で見つかった 40,000 Bq/kg を超える汚染土壌が堆積していた道路の側溝はそのまま放置されていた。堆積した土壌表面の線量は6月の 7.7 µSv/h から 22 µSv/h に、11µSv/h から 23 µSv/h に上昇していた。降雨と乾燥とによる天然の濃縮作用が継続している。
・住宅の内部で天井に近いところで、あるいは 1 階よりも 2 階のほうが空間線量の高いケースが認められたが、これらはコンクリート瓦等の屋根材料の表面に放射性セシウムが強く付着し、高圧水洗浄等では取れなくなっていることに起因することが判明した。学童保育が行われているような建物でもこのような屋根の汚染が認められた。
・渡利小学校通学路除染モデル事業が8月24日に実施されたが、報告された測定結果によれば、各地点空間線量は平均して「除染」前の 68%にしか下がっていない。除染作業の実態は側溝に溜まった泥を除去したということであって、コンクリートやアスファルトの汚染はそのままである。道路に面した住宅のコンクリートブロック塀や土壌の汚染もそのままである。一般に、除染は広い範囲で実施しなければその効果は見込めない。今回の計測において通学路の直ぐ側の地表で 20 µSv/h に及ぶ土壌の汚染があった。除染というからには天然のバックグラウンド・レベルである 0.05 µSv/h に達するかどうかでその効果が評価されるべきである。「除染」の限界が示されたと見るべきである。
・薬師町内の計測を行ったところ、国が詳細調査を行った地域から外された地点で高い汚染が認められた。ある住宅の庭では 1 m 高さで 2.7 µSv/h、50 cm 高さで 4.8 µSv/h、地表で20 µSv/h の汚染が認められた。これは南相馬市の子ども・妊婦の指定基準(50 cm 高さで2.0 µSv/h)をゆうに超えている。
・渡利地区では、地表1 cm高さでの線量が異常に高い値を示す箇所が随所に見られる。この地区全体の土壌汚染に起因すると思われる。土壌汚染の程度については、特定避難勧奨地点の検討項目になっていないが、チェルノブイリの教訓に学び、空気の汚染にも直接関係する土壌汚染の程度について、避難勧奨の判断に反映させるべきである。
・文字通りの「除染」は全く出来ていない。Cs-134 の半減期は2年、Cs-137 のそれは30年である。したがって、この汚染は容易には消えず、人の人生の長さに相当する。そのような土地に無防備な住民を住まわせてよいとはとうてい考えられない。



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