2012年4月5日木曜日

ノーマン・C・ラスムッセン教授による講演会実施結果について 昭和51年5月31日 原子力局調査国際協力課


ノーマン・C・ラスムッセン教授による講演会実施結果について

昭和51年5月31日
原子力局調査国際協力課

〔日時〕昭和51年5月25日(火)14:00~16:00
〔会場〕赤坂プリンスホテルプリンスルーム
〔講演者〕米国マサチューセッツ工科大学
ノーマン・C・ラスムッセン教授
〔演題〕「原子力発電の安全性」
〔講演会参加者〕
都道府県市町村関係99名
電力関係11 
その他6 
合計116 

〔質疑応答内容〕
以下は、5月25日午後2時から、赤坂プリンスホテルにおいて行われた、原子力局主催の「ノーマン・C・ラスムッセン教授講演会-原子力発電の安全性」における、質疑応答の内容をとりまとめたものである。
〔問1〕先般、GE社の3人の技師が、電子力発電所に対する危険を考え、会社を辞めた件であるが、彼らが、米国議会上下両院合同委員会で行った証言について、ラスムッセン博士の評価をお聴きしたい。特に、この3人は証言の中で、機器の実際の性能と理論上の予想とが、甚しい不一致を示す場合があるとして、原子力機器の材料腐食の理論あるいは設計上の問題を提起しているが、この点については博士はどのようにお考えかお聴かせ願いたい。
〔答1〕この3人は、極めて有能であり、社内では評判の高い技師であった。このような3人の技師が会社を辞め、その理由として、原子力発電の安全性に対する懸念を掲げているからには、3人の言葉に注意深く耳を傾ける必要があろう。
米国原子力規制委員会は、この技師達が提起したすべての問題を1つ1つ詳しく調査し、10㎝もの厚さの資料を提出した。その中には、原子力規制委員会が、この技師達が提起した問題に、いかに注意深く対処したか、およびその内容について説明している。
この3人は、どの程度の安全性が充分な安全性かということについて、それぞれ異った考えを持っていると思われる。
実際の議会での証言の際の様子を御説明したい、と言うのは、私も同じ日にその場におり、私自身もその委員会の前で証言したからである。3人は次のような証言をした。
ある上院議員の「あなた方が提起する問題は、技術的な問題か?」との質問に、彼らは「YES」と答えた。それに対する、上院議員の「技術的な解決策があるか?」との質問に、彼らは「YES」と答えた。そこで、上院議員が、「もしその様な解決策がすべての原子力発電所において実行されることが保証されるならば、あなた方は原子力を受け入れるか?」と質問したのに対して、技師達は「NO」と答えた。明らかに、この技師達は、原子力発電における自分達の専門領域を超えた部分について懸念を抱いていたのである。
付言するならば、この技師達は、カリフォルニア州にある宗教団体まがいの団体1の極めて活発なメンバーであり、この団体は、技術の進歩に反対し、また、極めて活発かつ積極的に原子力に対して反対してきた団体である。
注1)CIF(Creative Initiative Foundation)および、その先鋭的グループである、Project Survivalのことと思われる。
〔問2〕問1で述べたような理論上の予想と実際の性能との食違いについて、博士がこの問題にどのように取組んでおられるのか、あるいはまた、重大な事故を起こすこと無く、このような一致しない面を克服することができるのかどうかについてお聴きしたい。
〔答2〕すべての技術者は、何かのシステムを造る場合には、当然それが故障しないものと信じて造るものである。もち論、理論的には、技術者はシステムを造る場合、それを作動させるように造るのであって、それを故障させるために造るのでなはい。しかし、経験から、我々はどのようなシステムでも故障するものだということを知っている。すべての複雑な機械は、いつか故障することがある。技術者も、もち論この事を認識しているので、こような問題に対処するため、故障が起った場合でも、それによって重大な影響が出ないような設計をしようとするものである。原子力発電所の設計については、細心の注意が払われており、1つや2つの故障が起っても、重大な事故にならないように設計されている。このような概念は、多重防護と呼ばれており、いくつかの故障が起こらないと、重大な事故には至らないというシステムである。
昨年米国で運転中の55の原子力発電所で、1,800回の異常事象が報告されている。これは装置あるいはオペレータが、本来の目的を果さなかったという事態であるが、反対論者は、そのような、1,800回もの故障あるいは異常事象があったにもかかわらず事故が起らなかったということは、単に運が良かったのだと言っているわけである。しかし、私の考えでは、1,800回も幸運が続くことはあり得ないのであって、重大な事故に至らなかったのは、これらの原子力発電所は、当初から、故障が起ってもそれが重大な事故に至らないよう、細心の設計をされているからである。
〔問3〕今日、原子力発電所の稼働率低下が伝えられているが、米国では、商業用原子力発電所ができてから今日まで、稼働率がどのように推移しているかをお聴きしたい。
〔答3〕1974年における米国の原子力発電所の稼働率は、60~65%ぐらいであったが、1975年には、向上して、70%を少し上回るところまで来ている。先ほどこれが減少する傾向にあると言われたが、私には、そのような傾向を裏付けるようなデータは無い。
これまでよりも高い、80%という目標に達するためには、今後さらに多くの努力を払わねばならないが、なぜそこまで高まっていないのかを考えることは必要なことである。このような、稼働率の不足という事態は1つには、原子力発電の安全性について、必要以上に注意を払っていることにもよると思われる。原子力発電所においては、さ細な故障の場合にも、発電所の運転を止め、その故障が修理されるまで発電を停止するわけである。このように、停止して修理するということが、石炭や石油焚き発電所に比べてはるかに多いというような状況にもかかわらず、原子力発電所の稼働率は、今日の大型の石炭、石油焚き発電所の稼働率と同等のところまで来ている。従って、我々が望むほどのところまでは来てはいないが、それでもなお、原子力発電は、他の形態の発電と競合できるものになっていると思われる。
〔問4〕1960年代に建設されたGEならびにWH社の軽水炉は、耐用年数が何年ぐらいであると、米国では考えられているのか。
〔答4〕一般的に原子炉は、約30~35年の耐用年数を持つものと考えられている。元来、機械というものは摩耗するものであり、例えば、1940年に発電を行っていたプラントの中で、今日いまだに発電を続けているものがどれくらいあるかを考えてみると、非常に少いということが分る。
〔問5〕ソ連におけるBN350およびBN600、フランスにおけるラプソディやフェニックスの如きFBRの開発が進められている中で、米国においてはなぜこれに本格的に取組まないのか。
〔答5〕FBRについては、指摘された如く、ソ連やフランスに比べて、米国は遅れており、プロトタイプの炉も、ソ連やフランスよりも規模が小さい。しかし、米国としても、FBR開発のプログラムを持ち、テネシー州にその施設を作るべく現在設計中である。ハードウェアの面では、フランスに約10年の遅れをとっていると言えよう。しかし、米国の場合には、ウランの供給量がいくらか多いということから、FBRに対する必要性は小さく、21世紀に入るまでは、FBRに対する大幅な需要増加は無いと考えられる。
〔問6〕日本で大きく報道されたことであるが、米国において、廃棄物の貯蔵を行っている岩塩層の中に、水が浸透するということである。このことが、米国の大衆にどう受けとめられているのか、また、これの対応策はどうなっているのかを、お教え願いたい。
〔答6〕廃棄物の岩塩層における貯蔵については、現在のところ、米国では燃料再処理プラントが稼働していないので、これの廃棄物貯蔵はしていないが、政府は、地下約1,000mの岩塩層を、貯蔵のための場所として指定することを考えている。
米国の約3分の1の地域においては、この様な岩塩層が地下にあるので、技術的には、候補地が数多くあるわけであるが、政治的な観点からは、これらの地域の人々を説得しなければならないなど、解決すべき問題が残されている。
〔問7〕博士が先ほど、廃棄物を固型のガラス状で地中に貯蔵するということを言われたが、米国とは気候、風土、地質等も違い、砂漠も無い日本における、これの実用化の見込みと、日本にこれをそのまま適応できるのかどうかを聴かせて欲しい。
〔答7〕ガラス固化による処分については、日本に適当な場所があるかどうかは知らないが、砂漠でなければならないということはなく、岩塩層とか、花崗岩の層などの安定した所があれば良いわけである。具体的にどのような場所があるかどうかについては、日本の地層について、詳細に知っているわけではない。
〔問8〕ラルフネーダーが卒いる消費者団体が、いわゆる安全性の問題について、住民投票を6月20日にカリフォルニアで行う2ことに関心を持っているのだが、この問題の背景を教えて欲しい。
注2)カルフォルニアの住民投票は、正しくは、6月8日に行われるものであり、昨年4月に約49万の署名が集まったことにより、州民投票の案件となった。提案は、People for Proofなどが中心となって起算した“Nuclear Safe--guard Initiative”であり、今回の州民投票によって過半数を得た場合は、5年以内に安全システムと放射性廃棄物の処分法が、州議会によって有効であると確認されない限り、原発の建設は禁止され、現存プラントも縮小されることになる。
尚、この運動の中心的グループは、Project Survialであり、R.Naderが中心というわけではない。
〔答8〕今言及された連動というのは、カルフォルニア州で、原子力を許容するかどうかについて、6月8日に投票を行う件だと思うが、私は頂度、来日前にカルフォルニアに寄って来た。私の感触では、この投票の結果は、極めて票差が少いかも知れないが、私が話をした殆んどの人々は、恐らく反原子力側が負けるであろうと考えている。
このような問題は、投票で決すべき問題としては、極めて難かしいものであると思う。なぜなら、この問題について、十分な理解を得るためのバックグラウンドを、多くの人々が持っているわけでもなく、理解するための時間をさくことができない人々が殆んどだからである。従って、投票結果が一般市民の真の尺度になるかどうかは疑わしい。しかし、投票結果が出た後に、我々としては、検討してみるには興味深い対象と言えるかも知れない。
〔問9〕今日本では、岩波新書という大衆的なシリーズで、反原子力的学者の武谷三男氏が著した「原子力発電」という本が読まれているが、その中で著者は、ラスムッセン博士の功績を一部認めながらも、批判を行っている。それは、確率論というものは、人口密度の高い日本では論ぜられないものである;数学的手法が威力を発揮するには、明確な前提条件がなければならないが、それらは例えば、建屋の建設や構造などに至るまで、すべて100%良好に行くことを期待することである、しかしラスムッセン報告では、ECCSの設計や構造上の欠陥などは評価に入っていないではないかということ;ラスムッセン報告の統計には、急性障害による死者だけが入っていて、晩発性のものが入っていないではないか、ということ、また、アポロ計画における第4段エンジンの設計では、成功率99.9999%であったのに対し、実際に到達したのは、99.96%程度であったこと、などを批判している。
非常に大衆的な本であり、読んでいる人も大変多いと思うので、これについて明確な回答をいただきたい。
〔答9〕言及された書物の要約については、私も昨夜読んだが、先ほど指摘された点についても目を通した。
確かに、我々の研究において使った人口密度よりも、日本の人口満度の方が高く、3倍くらいになるかも知れない。しかし、このぐらいの小さな変化は、我々の基本的な結論に変化をもたらすものではなく、ある程度の作業により、日本の人口の密度に合わせて再計算することもでき、それによってどのようなリスクになるかの数字を出すこともできよう。
また、その本には、我々の研究は、すべてが100%良好であることを前提にしていると書いてあるが、この著者は、我々の報告を、ひどく誤って読んでいるようである。我々は、むしろ逆に、すべての部品は故障する可能性があると考えたのであり、事実、それぞれの部品について、故障率を考えている。
また、先ほど述べたように、急性障害以外にも、ガンなどの晩発性の障害について、我々は詳細にわたって調査をしている。我々としては、潜在的な、晩発性の発ガン率について、原子力によるものと、その他ものによるものとを、比較して記述したかったのであるが、原子力以外の分野においては、そのような調査は未だかって行われたことがなく、不可能であった。
また、ロケットの故障の確率についての指摘があったが、それについては次のように考える。ロケットの場合には、新しい種類の装置を使うために、それらの装置の故障経験が極めて少いのに比して、原子力発電の場合には、各種のポンプ、弁、配管など、どのような故障の形態が起り得るものであるかを、十分理解しており、この2つの差は歴然としている。
〔問10〕今年1月26日付の、日本の新聞で、米国の放射性廃棄物処理の安全性について問題があり、従って米国議会下院で原子力公聴会を開くという事が報告されたが、3米国下院において、どのように具体的に公聴会が開かれたかをおたずねしたい。
注3)米国下院政府活動委環境・エネルギー資源分科委員会のモアヘッド委員長が発表した会計検査院(GAO)報告によると、原子力の平和利用による放射性廃棄物の安全性に問題があり、このため同委員会は公聴会を開く予定である、との報道。
〔答10〕米国においては、規制当局が何らかの措置を決定した場合、それを実施する前に公聴会を開くという伝統がある。放射性廃棄物の処分方法についても、そのような措置を決定した場合には、実施前に公聴会を開き、すべての関連する者、あるいは利害団体が、異議を表明できるようにするわけである。
私は、連邦政府が、最終的にどのような処分方法を取るかということを決定するために、公聴会を開くということは知っているが、どのようなスケジュールで公聴会を開くかということについては、未だ知らない。
〔問11〕今、日本では、使用済燃料は英国に送られて、そこで再処理されているが、そこから出てきた固体廃棄物が問題である。これまでの話の中で、固体廃棄物は、地中深く埋めるとか、海底深く沈めるとか、あるいは最近は、ロケットで月に打ち込むなど、色々な事が掲げられているが、今日のところ、固体廃棄物については、全く見通しがつかないかと思う。
固体廃棄物処理の問題および使用済燃料の問題について、博士の御意見をいただきたい。
〔答11〕固体廃棄物には、一般に2つのカテゴリーがある。1つは放射性の低いもの、つまり低レベル固体廃棄物もう1つは、放射性の高い、高レベル固体廃棄物である。言うまでもなく、高レベルの固体廃棄物には、より多くの注意を払い、それだけ一般公衆の保護についても考えなければならないのであるが、先ほどの私の話の中で扱ったのは、このカテゴリーのものである。これらは、花崗岩とか岩塩層中に貯蔵して、安全を維持することも可能であり、あるいは、海外にドリルで深く穴をあけ、その中に投棄するという海洋処分も可能であろう。現在、そのような計画が種々取ざたされているが、まだ具体化したものはない。
一方、低レベルの固体廃棄物は、危険が少く、それ故にまた違った方法で処理される。米国では、一般には、これらはコンクリートで固められ、比較的浅い地中に埋められる。通常、これらの場所は、人里離れた所であり、政府によって管理される。日本については、どのような場所が可能なのか知らないし、また、その問題に対してどのような処置をとるかは、日本の問題であろう。
使用済燃料は、その放射性物質の貯蔵という面で、極めて良好に格納されている。核燃料は、レンガのようなセラミック体であるが、これは、極めて効果的な、放射性物質のトラップである。通常これらは、周辺で働く人間を、放射線から防護するために、水深6m位のプールの中に貯蔵される。このように、そこで働く人、あるいは一般公衆に対する重大なリスクなしに、長期に互って貯蔵することが可能であるが、最終的には、化学的な再処理に付されることになろう。
〔問12〕博士の報告にあるフォールト・ツリーという手法の中で扱っている確率が、過小であるという批判のあることが、我が国で紹介されている。この過小に見ている確率を、もっと大きく評価すると、原子力も一般災害と同じようになるということが言われているようである。
これについて、その後どのような論議が行われたか、また、その件について博士がどのようにお考えなのか、お聴かせ願いたい。
〔答12〕一部の反対論者は、我々の採った確率の数字は小さ過ぎると言うわけであるが、しかし、そう言いながら、彼らは反対の根拠を提示していない。我々は、例えば燃料溶融の確率を2万分の1としたが、200原子炉・年の4間でこのような事故が無かったという、我々の実際の経験からすれば、この確率は200分の1となる。
注4)1原子炉・年(Reactor・Year)とは、1基の原子炉が1年間運転された場合で、200原子炉・年は、例えば、50基が4年間運転された場合。
2万分の1と200分の1とでは、2桁の差があるが、実際には、そのような差はありそうには思われない。いま、ずれを修正しようということで、カープを2桁上にずらしたとしても、他のものによって起こされるリスクと比べると、なお2桁の差で、原子力発電のリスクの方が小さいというわけである。例え、そのような修正を行ったとしても、原子力発電のリスクが、他のものよりは小さいのだという結論には、何ら変化は無い。
〔問13〕この検討をされる際およびその研究の過程において、ポラリス潜水艦でこれまで蓄積されてきた、1,000原子炉・年の実績を、炉心溶融を考える際のデータとして使用したのか。
〔答13〕今指摘されたように、海軍の潜水艦によって蓄積された、原子炉・年は、1,000原子炉・年をはるかに越えるものであり、その間、1件も炉心溶融は起っていない。この経験から確率を考えるならば、1,000分の1の確率となるわけで、これを考えに入れると、我々の結論は、これと10倍も違わない、という事になると思う。
以上

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