2012年9月20日木曜日

「数値が低いあるいはNDだから大丈夫」だろうか?  特にホールボディーカウンターの測定限界には要注意 矢ヶ崎克馬


体内の放射能汚染:「数値が低いあるいはNDだから大丈夫」だろうか?
―特にホールボディーカウンターの測定限界には要注意
2012年8月6日

矢ヶ崎克馬
はじめに

今、各種の測定手段により身体の中に放射性セシウム等が検出されています。大概の場合は、「放射性物質の量は微少であり、健康に影響は無い」と、深く考察することもなしに安全宣言が出されています。はたして、「健康に影響は無い」のでしょうかここでは尿中のセシウム137の検出を例にとって、具体手に検討いたします。

 福島県内に住む乳幼児から、尿中にセシウムが検出されました。安全論を唱えている「専門家」によれば、常時身体の中にあるカリウムの被曝量と比較して、「人体に影響のあるレベルでは無い」ものだそうですが、はたしてそうでしょうか?

新聞報道内容は次のようなものです。
福島県内に住む0~7歳の乳幼児約2千人の尿を民間の分析機関「同位体研究所」(横浜市)が測定した結果、141人から放射性セシウムが検出されたことが30日、分かった。うち3人が尿1キログラム当たり10ベクレルを超え、最高は4歳男児の17・5ベクレル。残る138人は10ベクレル以下で最低は0・1ベクレルだった。(2012・6・30 共同通信)

セシウムが検出された141人の平均は1キログラム当たり2.2ベクレルだった。4歳の男児2人が17.5ベクレルと14.0ベクレル、次いで4歳女児が12.0ベクレルで、この3人が10ベクレルを超えた。
 唐木名誉教授は「子どもは代謝が早いのでセシウムは体内に蓄積せず排出されるだろう」と指摘した。【中日新聞】【朝刊】【201271
1.考察すべき事柄(カリウムと比較しながら)
身体の中にセシウム等が確認された時に、えてして「被曝量は少ないので心配ない」というコメントが特に安心論を唱える「専門家」から即刻届けられます。健康・いのちを大切に思う立場からは、検討しなければならない被曝状況はどのようなものなのでしょうか? まず、おしっこに放射性セシウムがあるということはどういうことかを確認しなければなりません。放射性セシウムが身体の中にあるということ自体が、「あってはならないこと」なのです。

進化の前提条件だったか、全くの異物か】カリウムは太古より常に体内に 存在する状態で人類は進化してきた、いわば人類が「耐性を身につけてきた」とでもいうべき物質なのですが、放射性セシウムは、全くの異物として体内に侵入 しているということを、まず念頭に置かなければならないでしょう。

【存在形態の違いと危害の大きさ】カリウム原子の約1万分の1が放射性です。体内での流動性と代謝は非常に活発であると言われます。しかし、セシウムのように放射性原子が微粒子を形成するようなことはなく、従って、同一 細胞が短時間内に繰り返し被曝する確率は非常に少ないと考えられます。それに対し、セシウムは蓄積しやすいとか、微粒子を形成して、局所的で継続した被曝 をすることが知られています。体内でことなった挙動をするにもかかわらず、セシウムをカリウムと同様だとして「安全」と判断することは実態とは相いれない ものがあります。安全と言い切って何の備えもしないことは子どもを保護する責任のある主権国家日本として決して行うべきではありません。
 さらに、ウクライナの「チェルノブイリ膀胱炎」からがんへの機構の研究では、汚染度が高く尿中のセシウム濃度が高いと特異な膀胱炎の発症率が高いことも報告されています。カリウム40はセシウムの汚染の無い、あるいは低いところにもありますが特異な膀胱炎は発生していないことも報告されています。A.Romanenkoら)
 セシウムは原子が集団をなす状態で身体に入ります。これに対してカリウム は、個々別々の単一原子で存在します。これは被曝の危害に大きな差をもたらします。その理由は、一つの細胞を再打撃する確率が全く異なるのです。身体に危 害が加わる危険の程度は、単に吸収線量(体が浴びた放射線の量:からだの単位質量当たりのエネルギーで測られます)で判断できるのではなく、細胞、特にDNAの損傷確率によるものです。この点では、一度打撃を受けた細胞に、細胞が修復しているプロセスで第2の打撃が加わるかどうかが、大きな危険度の指標となります(最近の分子生物学、あるいはECRRの主張)。健康に対する危害の大きさを判断することなしに、被曝線量だけで検討するのは今や全くの時代遅れなのです。

【排泄の対象か、体内定着か】身体の中には、血液やリンパ液中に存在するセシウムと臓器の中に取り込まれたセシウムがあります。この点は、カリウムは体内 にある全量が排泄されうる状態なのに対して、セシウムはそうではなく、おしっこに出ることがない臓器中にある状態を持つので、単純に比較することはできません。臓器に取り込まれたセシウムは排出され難く、体液(血液、リンパ液)中のセシウムだけが排泄の対象です。おしっこに出るセシウムは、血液やリンパ液 中に存在するものの一部が排泄されるのです。

生物学的半減期と物理的半減期】おしっこに出るものは、生物学的半減期に従って排泄されると考えられています。おしっこのベクレル数はその時のおしっこ全体に含まれる放射性セシウム量(セシウムの原子の量)から、物理的半減期により決まります。

【ベクレル】ベクレルという量は1秒間に何本の放射線が出てくるのか(正確には1秒あたりの崩壊数)を物語る物理量です。崩壊という概念は、放射線を出すとその原子は別の原子あるいは別の原子状態になり、元の状態では無くなることを意味します。通常の場合は1崩壊に1放射線で、1秒間に出る放射線の量がべクレルの数値になります。

【半減期】半減期という物理量は、放射線を出して崩壊した結果、崩壊した数だけ元の原子の数が減ります。元の量の半分にまでその原子が減ってしまう時間が 半減期です。「一定の定まった半減期」という物理量により崩壊の法則性が定まってくるのは、単位時間に放出される量がいつでもその時に存在する全体量に比 例しているという関係から導出されるのです。崩壊する場合も、排泄される場合も、この点が同一なのです。半減期を知れば、ベクレル数から全体量を知ることができます。

セシウムの量だけ知ればそれでよいか】カリウムの場合は、カリウムだけ検討すれば一応議論は一段落して完結します。カリウムの放射能と他の放射能が直接に関連していることはなく、放射性原子が一個一個ばらばらでいるからです。しかし、セシウムの場合はそうはいきません。事故を起こした原発から放出されたのは 放射性微粒子です。たくさんの種類の放射性原子が放出されました。測定されたのはセシウムだけですが、存在する、あるいは存在したのはセシウム以外に、ヨウ素、ストロンチウム、プルトニウム、ウラニウム、その他、その他。これらの危険を無視するわけにはいかないのです。なぜなら、放出された放射性原子は全て人々に危害を加えている(加えた可能性がある)のですから、無視するわけにはいきません。人々に危害を加えた可能性を語りたくない人は「セシウムだけ」というでしょう。しかしこれは現実を切り捨てて、健康被害が出ても「自己責任」で片づけたい人々の、ごまかし手段となっているものです。中でも、大量に放 出されて今は減衰しきっていて測定できない、ヨウ素の評価をきちんとすることはとても大切です。

隠されてきた内部被曝、低線量被曝】先日(2012.0728)放映された、TBS報道特集「日米・放射線影響研究所」(放影研)のルポ、の報道内容の一部をご紹介します。
 原​爆による直接外部被曝以外の、内部被曝(黒い雨)調査は米国の核戦略​に都合悪いと切り捨ててきた放影研が、3.11を機に方針転換。100msv/h 以下は安全」としてきた従来の立場を捨てて慢性・低線量・内部被曝の研究に今年から着手することになったと。
 カリウムとの比較を論ずる以前に、日本政府を支える「専門家」は被害の実態を隠し通してきたICRP体系の中で、「心配ない」といっているのです。肝心なことは現実を科学的にとらえることです。

測定限界の高い雑な測定による「被曝は無かった」という結果に警戒をしてください】
原爆を被曝してから米占領軍は「内部被曝は無かった」とデータ操作をしました。ABCCや放影研の統計的データ処理に大きな問題点があることが最近ようやくマスコミにも取り上げられるようになりました。ICRPが内部被曝を隠し、犠牲者を隠す体系であることも暴露されつつあります。昨年3月以来、東電フクシマ原発の爆発被害をデータ操作により、内部被曝は無かったことにされる恐れが高く、代わりに市民の健康被害を「放射線恐怖症」によるものだとねじ曲げて、安全・安心論が「病気治療に有効」だと、とんでない非科学が強行されようとしています。特に、NDの範囲が非常に硬い雑な測定を行うホールボディーカウンターが、「内部被曝」を否定する材料にされている懸念があります。ごまかされないために市民はその実情を知っておく必要があります。

ここではおしっこに例をとり、①身体から排出された尿などにどれだけのセシウム原子等があるか、②その時身体全体にはどれほどのセシウムがあるのか、③体内にセシウム等の放射性物質はいつ入ったのでしょうか?健康を慮るからには一番危険がある可能性の確認はしておくべきです。これらを論じて、健康を保護するための必要な事柄を模索します。
2.セシウムの体内存在量
2-1
.具体的計算
1)①おしっこから放射線が測定されたならば、そのベクレル数からおしっこ1kgに含まれるセシウム原子の数がわかります、それはセシウムの物理的半減期から計算できます。
②さらに、原発事故で放出された放射性微粒子の中には、たくさんの放射性元素がふくまれていることが確かめられています。セシウムが存在するならば必ず尿中に ストロンチウム、プルトニウム、ウラニウム等の放射性原子があることを念頭に置かなければなりません。微量でも身体には特に有害とされていますが、ここで は計算の対象にはしません。
③セシウムの崩壊はベータ線を出してバリウムに変わります。バリウムはガンマ線を出して安定なバリウムに変わります。この時放射平衡と言って、ベータ線が1本出るとガンマ線が1本出る状態となりますので、便宜的にバリウムの出すガンマ線をセシウムのガンマ線と言っているのです。通常ガンマ線を測定し、ベクレル数を出しますが、身体の中では必ずベータ線とガンマ線が放出されています。ですからBq/kgという測定は内実は2 Bq/kgなのです。(カリウム401回のベータ線放出で安定カルシウムに)

(2)1日でどれだけのおしっこが出るか、汗がどれだけ出るか、うんこがどれだけ出るか、を推定(測定)し、それらから1日でどれだけの量のセシウムが排泄されたかがわかります。

(3)1日のセシウム排泄量がわかると、それから生物学的半減期を用いて身体の中の血液やリンパ液中にあるセシウムの総量がわかります。生物学的半減期は年齢によって、また個人の体調によって異なりますが、平均的な半減期が知られていますので、その生物学的半減期を用いて、計算できます。ただし、臓器に蓄積されている量は存在することは確かですが、定量的に求めることは、おしっこ測定ではできません。

(4)計算を簡単にするために①尿中に1Bq/kgの場合に対して計算する。セシウムはCs137とする。物理的半減期は30年です。二つのケースで試算します。第1は、尿の量は、11リットルとして、放射性物質は尿以外には無いと仮定します。第2は、尿の量は11.5リットルとし、放射性物質が排泄されるのは尿、糞、汗の中にあり、全体の70%が尿中に排泄されると仮定します。全ての試算に於いて第2の場合は括弧で示します。
計算の結果は、1日で排泄される尿(汗、糞)中の放射性セシウムの総量は1.371092.87109 )(個):137千万個(287千万個)。
(5)次に血液やリンパ液に混じっている放射性セシウムの量を計算する。排泄された量から生物学的半減期に従って計算できる。おとなの生物学的半減期を80日、子どもで40日と半減期を仮定します。結果はおとなの場合、1.5810113.311011)(個):1580億個(3310億個)、全身での被曝線量は、115Bq (242Bq)、 子どもの場合は、0.7910111.661011)(個):90億個(1160億個)、全身での被曝線量は57.6Bq (121Bq)。これらは約2Bq/kg4Bq/kg)(おとなも子どもも)となります。これらはベータ線も考慮すれば、ベクレル数だけで倍になります:約4Bq/kg(8Bq/kg)であり、ガンマ線だけで尿中に2Bq/リットル あればベータ線を加えると、約8Bq/kg 16Bq/kg)で下記のように「危険汚染度」の領域になります。

2-2.体中にあるセシウム量で判断できる危険
ベラルーシのゴメリ医科大の研究によって明らかにされたことは、体重1kgあたり20から40ベクレル(Bq)で心電図などに異常が発生したことです。
 ベータ線とガンマ線が同数放出されていることと、臓器に蓄積されているセシウムは上記に計算された量以外に、独立して放射を継続していることを考慮しなければなりません。ベラルーシのバンダジェフスキー氏の無くなったベラルーシ市民の臓器解剖の結果、セシウム137は調査した全ての臓器に蓄積されており、子どもにはおとなの単位質量当たりの蓄積量の2倍程も蓄積されていたことを示しています。上記計算結果はあくまで血液やリンパ液中のセシウム137の量であり、臓器に蓄えられた量は計算に入っていません。
 臓器内蓄積量を考慮すると、1Bq/リットルでも十分危険領域の汚染となります。
 チェルノブイリの放射性微粒子がヨーロッパにも降り注ぎましたが、胎児に対しては、0.3mSv の吸収線量で小児白血病の過剰リスクが3倍なったという報告がなされています(Busby. int j environ res public health. 2009 dec;6(12):3105-14)。
 放射性物質の人体汚染の量についての情報は定かではありませんが、ウクライナのルギヌイ地区の汚染度は、郡山市と同程度で、福島市より少ない汚染度の場所ですが、子どもの甲状腺の疾病率は事故9年後で、10人に1人のわりあいで、甲状腺ガンは1000人中13人に上ることが報告されています。事故後6年目で男性の平均寿命が75歳から60歳に減少し(女性は58年減少)、全般的な健康不良、免疫力低下など酷い健康被害が報告されています(イワン・ゴトレフスキー、オレグ・ナスビット :「ウクライナ・ルギヌイ地区住民の健康状態」:今中哲二編「チェルノブイリ事故による放射能災害」 ―国際共同研究報告書― 技術と人間1998))。おしっこに1Bq/ リットルといえども決して軽視して済むものではありません。

3.体内にいつ入ったかーヨウ素131の危険―
(6) これらの放射性物質がいつ体内に侵入していくのでしょうか?個人個人の場合について丁寧に考察しなければいけませんが、個人的に行動記録を作っていてもなかなか特定できません。仮定を置いてその事態から被曝量を想定しなければなりません。最大に被曝する可能性は次のような場合です。「原発が爆発を起こした当初 から放射性物質を吸い込んだりして内部被曝をしてしまった。その後、排泄される量と摂取される量がバランスして、測定された量となっている。」というものです。単純化していますが、どの人もおそらくその可能性を否定することはできないでしょう。
 まず、ヨウ素131がどれほど放出したかを求めます。調べると、放射線量比 I131/Cs137が約100(測定日315日以降の最高値)が得られます。(茅野政道:日本原子力開発機構)これから放出された原子の数の比が求められます。これから体内に入ったセシウム量からヨウ素量が求められます。
ヨウ素の体内量はおとな:1.1510110.2411011)(個)、子ども:0.0610110.1211011 )(個)となります。
ヨウ素が甲状腺に集められますが、主としてベータ線による被曝が深刻ですので、ベータ線による甲状腺被曝を計算します。ICRPによれば、おとなも子どもも血液中のヨウ素の30%が甲状腺に集中するとされます(乳児はもっと高い)。甲状腺の質量をおとな20g、子ども4gと単純化して求めます。ここで、約90%の崩壊過程を占めるガンマ線とベータ線で概略計算を致します:ヨウ素131のガンマ線エネルギーは0.364MeV、ベータ線エネルギーは0.606MeVです。
おとなで、16Sv 35 mSv)、子どもで42Sv88mSv)程度と大変高い値になります。確認ですが、これはおしっこの中にセシウム137が1Bq/リットル入っていたとした時のヨウ素被曝量です。この計算には入りませんが、ヨウ素だけに被曝した人々は相当たくさんいると思えます。特に子どもの試算値はICRPでさえも危険としている100Sv程度もあるものです。
 前述した、福島市より汚染度が低く、郡山市とほぼ同じ程度と見なされるウクライナルギヌイ地区では5年後から急増し、10年後には100人に1人の割合で小児甲状腺がんが大量に発生したことに注意すべきです。また、ベラルーシでは事故翌年からの増加傾向が確認されています。この数値は内部被曝のみの値であり、これに加えて外部被曝の効果を考慮しなければならないのは、厳しい現実です。

4.安易に「大丈夫」というなかれ
 まやかしの「大丈夫」論は被験者の健康を切り捨てる 恐れがあります。被験者は迷惑千万の被曝をしているのです。健康被害を未然に防止する最大限の防護をしてこそ、国の、あるいは東電の誠意が伝わるものです。しかし、専門家の振りをした「専門家」がほとんど何も検討せずに、「安心論」を振りまくのは、仮にも専門家として倫理に違反していませんか?
 健康被害の恐れのある市民、特に子どもにとっては重大です。この試算は1Bq/リットル の尿中セシウム137量を、合理的な最適とみられる仮定により数値を求め、計算して求めたものです。仮定数値を変化させれば値は当然変化しますが、桁数までを変えるには至りません。実際の検査では最高17.5 Bq/リットルの子どもも含まれており、予測は極めて深刻です。楽観視できる根拠はありません。17.5 Bq/リットルの子どもの推定甲状腺被曝量は0.7Sv (1.5Sv)となり、看過できる被曝量では無いのです。

ベラルーシの無くなった市民230人の臓器解剖をしたバンダジェフスキー博士の結果は、セシウム137はおとなも子どもも各種臓器内に蓄積し、子どもは大人の倍以上になるほど蓄積量が多く、かつ、甲状腺に蓄積したセシウム量も格段に多いものです。唐木氏の言う「子どもは代謝が早いのでセシウムは体内に蓄積せず排出されるだろう」という推察を全く否定する結果です。
 七條和子ら氏の研究(2009年)によれば、米国が試料として持ちかえっていた、亡くなった原爆被爆者の骨や臓器の中にまぎれも無く微粒子として放射性物質が存在していることが判明しています。放射性微粒子は周囲の細胞を繰り返し継続的に打撃し、発がん等に大きな危険があることが論じられて、ICRP流に計算した被曝リスクの100倍から1000倍のリスクを内部被曝は示しているとされます(ECRR)。

子どものがんの進展は一般に大変早いものであり、予防医学的な立場か らも、「早期発見・早期治療」が原則です。にもかかわらず、「安全」と宣言して終わるのは、子どもの健康被害を拡大する恐れがあり、市民や子供のいのちの 切り捨てに他なりません。ベラルーシの子供のがんはチェルノブイリ事故の翌年に早くも増加を示していることなどを考慮すれば、年一回の検査実施体制を構築すべきであるとおもいます。

 安全と言い切って何の備えもしないことは子どもを保護する責任のある主権国家日本として決して行うべきではありません。国は子どもの無料検診・無料治療制度を一刻も早く確立すべきであり、日本甲状腺学会に加入している医師たちはもちろん全ての医師が、医の良心に従い、市民が健康に生きる権利を擁護すべきです。

5.ホールボディーカウンター(WBC
ホールボディーカウンター(WBC)測定の結果を報道している次の文面を紹介する。
2012//4
毎日新聞(朝刊)25面に表記見出しの記事が掲載されました。
以下に記事の転載と発表した東京大学医科学研究所の担当医師・坪倉正治医師による「南相馬市立総合病院の内部被ばく検査から」のレポートを添付します。
<原発事故>福島の子供 セシウム検出0.1%に
毎日新聞 83()231分配信
 福島県内の幼児や児童約 6000人を対象に今年4~6月に実施した内部被ばく検査の結果を解析したところ、放射性セシウムが検出されたのは約0.1%だったことが、東京大医科学研究所の調査で分かった。幼児や児童では、取り込んだセシウムが代謝などで体外に出て30~60日程度で半減する。東京電力福島第1原発事故から1年以上が経過し、現在は事故直後に取り込んだセシウムの影響がほとんど残っていない。
  担当の坪倉正治医師は「今回の結果は、事故後もセシウムによる内部被ばくが続いていたチェルノブイリ原発事故の被災地と違い、事故後の日常生活ではセシウムの取り込みがほとんどなく、大半の子どもで慢性的な内部被ばくが非常に低いレベルにあることを示している」と説明する。
 南相馬市立総合病院やひらた中央病院など福島県内の4病院で実施しているホールボディーカウンターによる内部被ばく検査を、今年4~6月に受けた4~12歳の幼児と児童計 5931人分の結果を坪倉医師が解析。放射性セシウムの検出限界(1人当たり250~300ベクレル)を超えたのは6人(約0,1%)だけだった。このう ち3人は同じ家族で、最高で615ベクレル。野生のキノコを食べたのが原因とみられる。
 坪倉医師は「露地栽培の野菜などを控えたことや、国の厳しい食品規制に加え、自給率が低く食品を輸入に頼っていることが影響した」と推測する。【河内敏康

 上記報道の坪倉氏による分析結果には大きな疑問があります。
前出尿中のセシウム137等の測定では、2000人の小児被験者のうち約7%の141人に尿中のセシウムの検出を報告しています。そのうちの報告されている最低検出レベルは0.1Bq/l です。ホールボデーカウンターでは、放射性セシウムの検出限界(1人当たり250~300ベクレル)で約6000人中0.1%の6人が検出限界以上であったとしています。
これらの精度を比較することが必要です。
 上記、1人の一日排泄尿が1リットルで尿以外には排泄されないとした場合、1Bq/lの濃度が子どもの身体内の(血液中の)全放射線量は約57Bq でありました。検出限界に近い0.1Bq/l の場合では約6Bqだということになります。これをホールボディーカウンターで計測すると全身で6Bq まで測定していることに相当します。しかるに坪倉氏らの測定では検出限界が250300Bq であるとしています。これは尿の測定限界の50倍から60倍の検出限界です。これでは測定で検出される子どもの数が見かけ上激減するところとなります。事実、尿検査では7%だったのに対し、ホールボディーカウンターでは0.1%です。
 以前から、形の上では測定をして見せて、ずさんな測定方法により検出限界を上げて、「測定しました、被曝したものはいませんでした」と「測定による科学粉飾が懸念されていましたが、この測定例は典型的にその 事例に入るものです。子どもの本当の健康被害の懸念を隠す許しがたい科学的粉飾と言えましょう。0.1%だけというような虚偽の結果が出る測定方法はやめて、誠実に子どもの健康を判断できる検査をすべきです。
 (1)ホールボディーカウンターの測定で、限界値が10ベクレル/全身より高い値のデータを内部被曝しているかいないかの判断に使用したり、統計的データに決して使用しないようにすることが、市民の被爆調査としては誠実な対応です。
(2) ホールボディーカウンターの測定をされた全ての被検査者は、検査結果の測定限界がどのようなものであるか、確認をしてください。上記のような被曝の実質を 反映できない測定限界である場合には、ホールボディーカウンターの測定結果の「非検出」という結果を信用しないでください。尿検査かその他のもっと精度の 良い測定で再検査する必要があります。そのようにしていただければ、将来に対する証拠確認にということに対しては、より信頼できるデータを得ることができます。
(以上、2012年8月6日稿)


体内の放射能汚染の数値が低い又はND(不検出)だから大丈夫か?

-ホールボディーカウンターは「内部被曝隠し」の仲立ちになる恐れがある-


2012916
矢ヶ崎克馬

はじめに

今、各種の測定手段により身体の中に放射性セシウム等が検出されていま す。大概の場合は、「放射性物質の量は微少であり、健康に影響は無い」と、深く考察することもなしに安全宣言が出されています。はたして、「健康に影響は 無い」のでしょうか。最近立て続けに二つの測定結果が出ています。ここでは尿中のセシウム137の検出を例にとって、具体的に検討し、ホールボディーカウンターの結果と合わせて議論し、尿中のセシウムについてどう判断したら良いかなどの質問への答えの一つとしたいと思います。 

  具体的な値の計算過程を詳しく記していますが、その部分を読み飛ばしてナナメ読みされてもND(不検出)だから問題がないのではなく、また同時に内部被曝の問題の要旨を-全ては無理にしても-読み取っていただけると思います。

(1) 福島県内に住む乳幼児から、尿中にセシウムが検出されました

安全論を唱えている「専門家」によれば、常時身体の中にあるカリウムの被曝量と比較して、「人体に影響のあるレベルでは無い」ものだそうですが、はたしてそうでしょうか。

新聞報道内容は次のようなものです。

福島県内に住む07歳の乳幼児約2,000人の尿を民間の分析機関「同位体研究所」(横浜市)が測定した結果、141人から放射性セシウムが検出されたことが630日に分かった。うち3人が尿1 kg当たり10 Bq*(ベクレル)を超え、最高は4歳男児の17.5 Bq。残る138人は10 Bq以下で最低は0.1 Bqだった。(2012/6/30共同通信)

セシウムが検出された141人の平均は1 kg当たり2.2 Bqだった。4歳の男児2人が17.5 Bq14.0 Bq、次いで4歳女児が12.0 Bqで、この3人が10 Bqを超えた。唐木東大名誉教授は「子どもは代謝が早いのでセシウムは体内に蓄積せず排出されるだろう」と指摘した。【中日新聞】【朝刊】【2012/7/1

   *ベクレルBqは放射性物質が放射線を出す能力を表す単位。1秒間に出す放射線の本数。

 (2) ホールボディーカウンター(WBC*測定の結果の報道

 ホールボディーカウンターは身体から漏れ出するセシウム137などのガンマ線を計測し、人間の体内に摂取され沈着した放射性物質の量を体外から測定する装置で、内部被曝線量を調べるとされている。しかし内部被曝は体内に入った放射性物質からのアルファ線やベータ線による被曝の影響も大きく、内部被曝を正しく測定しているわけではないので注意が必要。
【毎日新聞(朝刊)】2012/8/425面に表記見出しの記事が掲載されました。
      

<原発事故>福島の子供 セシウム検出0.1%

【毎日新聞  83() 231分配信  

福島県内の幼児や児童約60,000人を対象に今年46月に実施した内部被ばく検査の結果を解析したところ、放射性セシウムが検出されたのは約0.1%だったことが、東京大医科学研究の調査で分かった。幼児や児童では、取り込んだセシウムが代謝などで体外に出て3060日程度で半減する。東京電力福島第1原発事故から1年以上が経過し、現在は事故直後に取り込んだセシウムの影響がほとんど残っていない。

  担当の坪倉正治医師は「今回の結果は、事故後もセシウムによる内部被ばくが続いていたチェルノブイリ原発事故の被災地と違い、事故後の日常生活ではセシウ ムの取り込みがほとんどなく、大半の子どもで慢性的な内部被ばくが非常に低いレベルにあることを示している」と説明する。
 南相馬市立総合病院やひらた中央病院など福島県内の4病院で実施しているホールボディーカウンターによる内部被ばく検査を、今年46月に受けた412歳の幼児と児童計5,931人分の結果を坪倉医師が解析。放射性セシウムの検出限界(1人当たり250300 Bq)を超えたのは6人(約0.1%)だけだった。このうち3人は同じ家族で、最高で615 Bq。野生のキノコを食べたのが原因とみられる。
 坪倉医師は「露地栽培の野菜などを控えたことや、国の厳しい食品規制に加え、自給率が低く食品を輸入に頼っていることが影響した」と推測する。

健康被害を防護する立場から考えてみる 

(1)身体の中(血液中か臓器内か)の放射性セシウム
放射性セシウムは、大雑把に、 血液あるいはリンパ液中にある状態と、臓器に取り込まれている状態の二つに大別できます。尿の検査では臓器に取り込まれている放射性物質はそれがいくら あっても測定できません。ホールボディーカウンターは体内にある全てのガンマ線を出す放射性物質は測定可能ですが、アルファ線、ベータ線の測定はできませ ん。

(2)無視できない放射平衡
例えば、セシウムは、ベータ線を出し(半減期39)バリウムに変わって、さらにバリウムはガンマ線(半減期2.6) 放出します。しかし同時に、バリウムがセシウムの崩壊によって生成し、両者に半減期に大きな違いがあってセシウムからのベータ線とバリウムからのガンマ線 が同時に放射されます。これを放射平衡状態と言いますが、この状態ではベータ線の発射とガンマ線の発射が同数となるために、技術的理由でバリウムのガンマ 線を測定して「セシウムのガンマ線」と呼んでいます。このため、ガンマ線だけを計測してBq数にしているときには、実際は(体内では)倍の2 Bqなのです。従って多くの場合、このベータ線の被曝が無視されていることがあるので、事実に基づいて被曝量を計算する必要があります。

(1)   いつ被曝したか
放射性物質がいつ身体内に入ったかが大問題です。測定はその時点で身体中にある放射性物質を測定しているので、過去に被曝している放射性物質はいくら被曝していても現在体内に無かったり、それ自体が減衰していたら、測定できません。また、測定がND(不検出)判定でも、過去の被曝がないということではありません。全ての市民は、原発の爆発直後にさかのぼって被曝し、半減期が8日と短いヨウ素による被曝の可能性がありますので、いつ被曝したかが極めて重要です。

(2)   子どもの甲状腺被曝の場合
尿中に1Bq/リットルの放射性セシウムがあれば、単純計算では、100 mSv (ミリシーベルト*)に迫る甲状腺被曝量があるので甲状腺の検査は必ず行なわなければなりません。 

       * シーベルトSvは放射線による人体への影響度合いを表す単位。放射線が与えた1 kg当たりのエネルギーを、ジュールJ単位で表したもの。放射線は電離(原子から電子を弾き飛ばす)を行い、分子を切断するには一定のエネルギーが必要で、切断された個数は放射線が身体に与えた全エネルギーで計ることができる。シーベルトは1 kg当たり何個の分子が切断されたかを反映しているが、これがそのまま生体の被曝による生物学的影響の絶対的な大きさを表すわけではなく、従って厳密にはシーベルトSvの数値だけで影響を判断することには疑念が出されている。

影響量のシーベルトは一時間当たりや一年当たりで割合でもあらわされる。ミリ(m)はその千の

一、その千分の一がマイクロ(μ)である。通常は1mSv/年=0.114 μSv/時間などと表される。なおこの値は国が基準として定めているが、これで安全というわけではなくあくまでゼロを目指さなければならない。 

(3)   尿中のセシウム
尿中のセシウム0.1 Bq/l(リットルまで測定可能ですが、この値から全身被曝量を計算すると、子どもの場合、全身について約6 Bqに相当します。ところが報告されているホールボディーカウンターの検出限界は250300 Bqとされています。しかしこれでは、尿測定の検出限界の5060倍に相当し、「測定」という名で実質的に「内部被曝隠し」を行っていることになります。このような「内部被曝隠し」に通じるホールボディーカウンターのずさんな測定は、検出限界が尿検査の検出限界と同程度にならない限り(実際はほとんど不可能)中止しなければなりません。

この測定限界の高い雑なホールボディーカウンター測定が「内部被曝 は無かった」という被曝隠しに利用されてきました。ホールボディーカウンターの測定を、内部被曝があったかなかったかの判断に使用し、統計的データには決 して使用しないようにすること、これが市民の被爆調査としては誠実な対応です。 

(4)   ホールボディーカウンターの測定結果
ホールボディーカウンターの全ての被検査者は、検査結果の測定限界がどのよ うなものであるか、確認をすることです。既に述べた被曝を反映できない測定限界がある場合には、ホールボディーカウンターの測定結果の「非検出」という結 果を信用しないことです。「将来、証拠確認」が必要となる市民の皆さんは、より信頼できる医療機関あるいは測定所で、より精度のよい測定を行うことが必要 です。

1.考察すべき事柄-カリウムと比較するのは適切か?-

身体の中にセシウム等が確認された時に、えてして「カリウムと比較して被曝量は少ないので心配ない」というコメントが特に安心論を唱える「専門家」が登場しますが、健康と命を大切に思う立場からみる被曝とはどのようなものなのでしょう。
 まず尿に放射性セシウムがあることにどんな意味があるか確認しなければなりません。いうまでもなく放射性セシウムが身体の中にあるということ自体が「あってはならないこと」なのです。

<カリウムの放射線は:被曝のバックグラウンド:いつでもあり、ずっと在り続けた>

カリウムは太古より常に体内に存在する状態で人類は進化してきました。カリウム は人類が「身体中のカリウムの放射線を浴び続けて進化してきた」物質です。これに対して放射性セシウムは、全くの異物として体内に侵入します。これをまず 念頭に置くことです。放射性カリウムはセシウムがあろうが無かろうが常に身体中に在り、そのベータ線(11%のカリウム40 γ線)被曝は常に身体被曝のバックグラウンドとなっているものです。放射性セシウムが体中に入るときは、このバックグラウンドに加えて被曝を重ねます。極論すれば、例えカリウムでは被曝の害が出なくても、セシウムの被曝が重なれば、害が出現しうるのです。この被曝の状況を考慮すれば、セシウムの被曝の線量 をカリウムの被曝線量と比較すること自体が誤りと言えるでしょう。
<崩壊の違いと被曝密度の大きさ>

カリウム原子の約1万分の1に放射能があります。放射性原子だけが集合していることはあり得ません。カリウム4089%はベータ線を出してカルシウムになります。残りの11%は電子を捕獲してアルゴンに変わりその際ガンマ線を放出します。それぞれのカリウム40原子はベータ線を1本出すかあるいはガンマ線を1本出すか、放射線を1本だけ出します。同じ原子が放射線を2本以上出して局所的に被曝の密度を上げることはしません。物理的半減期は125千万年です。また、それぞれの放射性カリウム原子は遠く離れていますので、被曝領域が重なることはありません。
 これに対しセシウム137はその原子の95%はベータ線を放出し、準安定状態のバリウムとなり、準安定状態のバリウムはガンマ線を出して安定バリウムになります。β崩壊の物理的半減期は約30年、ガンマ崩壊の半減期は2.6分です。この場合、たった一つのセシウム原子が孤立していた場合、一つの原子からベータ線が出ると、程なくガンマ線が放出され、ガンマ線が2.6分以内に放出される確率は2分の1なのです。もしセシウム137 多数の原子が放射性微粒子の中に存在するならば、多数の放射線が同じ微粒子から放出されることとなり、微粒子周辺の被曝状況(分子切断状況)は大変危険な ものとなります。その際、ベータ崩壊とガンマ崩壊は放射平衡を形成し、ベータ線が放出されるテンポとガンマ線が放出されるテンポが等しくなります。カリウ ム原子がたった1個の放射線を出したのに比べ、この微粒子からは、一つの原子から2本放射線を出す割合で、ベータ線とガンマ線が同時に放出されます。残りの5%のセシウム137は。ベータ線を出して直接安定バリウムとなります。以上のように、(5%原子を除き)セシウム1371原子から2本の放射線を出します。この放射線放出は、1原子当たりカリウムの倍であり、かつ被曝はカリウム放射線と重なるために、局所的被曝が高密度になります。
セシウムは他の放射性物質と共に微粒子を形成して放出され、微粒子も直径が1μm以下ならば、肺房等を通過して血 液の中に入ると言われます。(セシウムは環境に定着すると様々な元素と出会い、化学結合も行い、放出された時と姿を変える可能性が高いと思われます。しか し今、体中被曝を問題にするときには、原子炉が爆発した時の「放射性微粒子」の姿で呼吸により体内に入ったものを除外するわけにはいきません。)身体に危害が加わる危険の程度は、単にICRP式吸収線量(体が浴びた放射線の量で、体の単位質量当たりのエネルギーで測られる)だけで判断できるのではなく、細胞、特にDNAの損傷の確率あるいは密度によります。また、打撃を受ける細胞にとっては、一度打撃を受けた細胞が修復する過程で第2の打撃が加わるかどうかが、大きな危険度の指標となると言われます(最近の分子生物学、あるいはECRRの主張)。微粒子を形成した原子炉から噴出した放射性セシウム等は特に危険だと言えます。
放射線の作用は電離と言われ、電離は分子を切断します。人は全身の細胞数がおよそ60兆個と言われますが、カリウムが1日当たりで分子切断をもたらすその数は、おおよそ1細胞当たりで0.1個の程度です。それに対し、直径1μmの放射性微粒子が体内に入った場合で、時間当たりの放射線発射が一番少ない、全原子がセシウム137であった場合を仮定すると、ベータ線が届く範囲の半径1㎝球内での分子切断は、1細胞当たり100個の程度となります。微粒子で体内に入る場合は桁違いに密度の高い分子切断をもたらし、かつそれはカリウムの被曝と重なるのです。このカリウムの被曝状況はICRPモデル臓器ごとに平均化単純化をする測り方で代弁できますが、セシウム等の微粒子による被曝はICRPモデルでは決して表現できないのです。

<排泄の対象か体内定着か>

身体の中には、血液やリンパ液中に存在する放射性セシウムと臓器の中に取り込まれた放射性セシウムがあります。臓器に取り込まれた放射性セシウムは排出されにくいため、体液(血液、リンパ液)中の放射性セシウムだけが短期的な排泄の対象で、尿に出る放射性セシウムは、血液やリンパ液中に存在するものの一部が排泄されると考えるべきです。

<生物学的半減期と物理的半減期>

尿に出るものは、生物学的半減期に従って排泄されると考えられています。尿のBq数はその時の尿全体に含まれる放射性セシウムの半減期により決まります。
 Bqという量は既に記したように1秒間に何本の放射線が出てくるのかですが、正確には1秒あたりの崩壊数を物語る物理量です。崩壊とは、放射線を出すとその原子は別の原子あるいは別の原子状態になり、元の状態では無くなることです。通常の場合は1崩壊に1放射線で、1秒間に出る放射線の量がBqの数値になります。
 放射性物質が放射線を出して崩壊した結果、崩壊した数だけ元の原子の数が減り、元の量の半分にまでその原子が減ってしまう時間が半減期です。

この「一定の定まった半減期」という物理量により崩壊の法則性が定まるのは、単位時間に放出される量がその時に存在する全体量に比例するという関係から導出されるのです。崩壊する場合も、排泄される場合も、この点が同じなのです。半減期を知れば、Bq数から全体量を知ることができます。

放射性セシウムの量だけ知ればそれでよいか>

放射性セシウムの場合は、事故を起こした原発から放出されたのは放射性微粒子で、多種類の放射性原子が混在した微粒子が形成され、放出されました。爆発から1年半も経った今は、測定は放射性 シウム中心にされています。しかし、放出されたのはセシウム以外にヨウ素、ストロンチウム、プルトニウム、ウラニウム、その他、その他です。これらの危険 を無視するわけにはいきません。放出された放射性原子は全て人々に危害を加え、又は加えた可能性があるので無視できません。人々に危害を加えた可能性を語 りたくない人は「セシウムだけ」というでしょう。しかしこれでは現実を切り捨てて、健康被害が出ても「自己責任」で片づけた、健康以外の事情を重視する 人々のごまかしです。多種類の放出物の中でも、特に大量に放出されて今は減衰しきって測定できない放射性ヨウ素の評価をきちんとすることは最低限必要で、とても大切です。 

<隠されてきた内部被曝、低線量被曝>

先日(2012/07/28)放映されたTBS報道特集「日米・放射線影響研究所」(放影研)のドキュメンタリーでは、原爆による直接外部被曝以外の内部被曝(黒い雨)調査は米国の核戦略に都合悪いことは切り捨てゝ「100 mSv/h以下は安全」としてきたこと等を批判しています。
 日本政府を支える「専門家」は被害の実態を隠し通してきた「国際放射性防護委員会ICRP*という一民間団体の体系に基づいて、「心配ない」といっているのです。肝心なことは現実を科学的にとらえることです。 

<測定限界の高い雑な測定による被曝は無かった?>

原爆を被曝してから米占領軍は「内部被曝は無かった」とデータの操作をしました。原爆障害調査委員会ABCCの統計的データ処理に大きな問題点があることが最近ようやくマスコミにも取り上げられるようになりました。ICRPが内部被曝を隠し、犠牲者を隠す体系であることも暴露されつつあり、国際原子力ムラとも言われています。

昨年3月以来、東電フクシマ原発の爆発被害をデータ操作により、内部被曝は無かったことにされる恐れが高く、代わりに市民の健康被害を「放射線恐怖症」によるものだとねじ曲げた安全・安心論で「病気治療に有効」だなど、とんでない非科学が強行されようとしています。 

特に、NDの範囲が非常に雑な測定を行うホールボディーカウンターが、「内部被曝」を否定する材料にされている懸念がおおいにあります。ごまかされないために市民はその実情を知っておく必要があります。 

ここで尿に例をとり、

     身体から排出された尿などにどれだけのセシウム原子等があるか、
     その時身体全体にはどれほどのセシウムがあるのか、
     体内にセシウム等の放射性物質はいつ入ったか、

健康を慮るからにはこれらの一番危険がある可能性の確認をしてみましょう。

2.セシウムの体内存在量
2-1
.具体的計算

1 ① 尿から放射線が測定されたならば、そのBq数から尿1 kgに含まれるセシウム原子の数がわかります、これはセシウムの物理的半減期から計算できます。
② さらに、原発事故で放出された放射性微粒子の中には、たくさんの放射性元素がふくまれていることが確かめられています。セシ ウムが存在するならば必ず尿中にストロンチウム、プルトニウム、ウラニウム等の放射性原子があることを念頭に置かなければなりません。微量でも身体には特に有害とされていますが、ここでは計算の対象にはしません。
③ セシウムの崩壊はベータ線を出してバリウムに変わります。バリウムはガンマ線を出して安定なバリウムに変わります。この時放射平衡という、ベータ線が1本出るとガンマ線が1本出る状態となりますので、便宜的にバリウムの出すガンマ線をセシウムのガンマ線といっているのです。通常ガンマ線を測定し、Bq数を出しますが、身体の中では必ずベータ線とガンマ線が放出されています。ですからBq/kgという測定は内実は2 Bq/kgなのです。(カリウム401回のベータ線放出で安定カルシウムになる)
(2)  1日でどれだけの尿が出るか、汗がどれだけ出るか、糞がどれだけ出るかを推定(測定)し、それらから1日でどれだけの量のセシウムが排泄されたかが、物理的半減期に従って推定できます。
(3)  1日のセシウム排泄量がわかると、それから生物学的半減期を用いて身体の中の血液やリンパ液中にあるセシウムの総量がわかりま す。生物学的半減期は、概念的物理量であり、どのような適用範囲があるか等については、厳密に定量的に議論ができているものではありませんが、便宜的には 広く量の判断に使用されています。年齢によって、また個人の体調によって一定ではなく異なりますが、平均的な半減期が知られていますので、その生物学的半 減期を用いて計算できます。ただし、臓器に蓄積されている量があることは確かですが、尿測定では定量的に求めることはできません。さらに全身での放射性セ シウムの存在量がわかると物理的半減期により、全身からのBq数がわかります。
(4)  計算を簡単にするために尿中に1 Bq/kgの場合に対して計算する。セシウムはCs137とする。物理的半減期は30年です。二つのケースで試算します。

1は、尿の量は、11リットルとして、放射性物質は尿以外には無いと仮定します。第2は、尿の量は11.5リットルとし、放射性物質が排泄されるのは尿、糞、汗の中にあり、全体の70%が尿中に排泄されると仮定します。

全ての試算で第2の仮定の場合は括弧で示します。

計算の結果は、1日で排泄される尿(汗、糞)中の放射性セシウムの総量は1.371092.87109個=137千万個(287千万個)。
(5) 次に血液やリンパ液に混じっている放射性セシウムの量を計算します。排泄された量から生物学的半減期に従って計算できます。おとなの生物学的半減期を80日、子どもで40日と半減期を仮定します。結果はおとなの場合、1.5810113.311011)個=1580億個(3310億個)、全身での被曝線量は、115 Bq (242 Bq) 子どもの場合は、0.7910111.661011個=790億個(1660億個)、全身の被曝線量は57.6 Bq (121 Bq) 。これらはおとなも子どもも約2 Bq/kg4Bq/kg)となります。これらはベータ線も考慮すれば、Bq数だけで倍の約4 Bq/kg8 Bq/kg)であり、ガンマ線だけで尿中に2 Bq/リットルあればベータ線を加えると、約8 Bq/kg 16 Bq/kg)で、次に示すように「危険汚染度」の領域になります。

2-2.体内にあるセシウム量で判断できる危険性

1986年のチェルノブイリ原発事故について、ベラルーシのゴメリ医科大の研究によって明らかにされたことは、体重1 kgあたり20から40 Bqで心電図などに異常が発生したことです。
 ベータ線とガンマ線が同数放出されていることと、臓器に蓄積されているセシウムは上に計算された量以外に、独立して放射を継続していることを考慮しなければなりません。 

  ベラルーシのバンダジェフスキー氏が亡くなったベラルーシ市民の臓器解剖をした結果、セシウム137は調査した全ての臓器に蓄積されており、子どもにはおとなの単位質量当たりの蓄積量の2倍程も蓄積されていたことがわかりました。上の計算結果はあくまで血液やリンパ液中のセシウム137の量であり、臓器に蓄えられた量は計算に入っていません。
 臓器内蓄積量を考慮すると、1 Bq/リットルでも十分危険領域の汚染となります。
 チェルノブイリの放射性微粒子がヨーロッパにも降り注ぎましたが、胎児に対しては、0.3 mSv の吸収線量で小児白血病の過剰リスクが3倍なったという報告がなされています。Busby. int j environ res public health. 2009 dec;6(12):3105-14

 放射性物質の人体汚染の量についての情報は定かではありませんが、ウクライナのルギヌイ地区の汚染度は、郡山市と同程度で、福島市より少ない汚染度の場所ですが、子どもの甲状腺の疾病率は事故9年後で、10人に1人のわりあい、甲状腺ガンは1,000人中13人に上ることが報告されています。事故後6年目で男性の平均寿命が75歳から60歳に減少し(女性は58年減少)、全般的な健康不良、免疫力低下など酷い健康被害が報告されています(「ウクライナ・ルギヌイ 地区住民の健康状態」イワン・ゴトレフスキー、オレグ・ナスビット、「チェルノブイリ事故による放射能災害」今中哲二編国際共同研究報告書技術と人間1998年)。

尿に1 Bq/ リットルといえども決して軽視して済むものではありません。


3.体内にいつ入ったか-ヨウ素131の危険

これらの放射性物質がいつ体内に侵入したのでしょうか。個人個人の場合について丁寧に考察しなければなりませんが、個人的に行動記録を作っていてもなかなか特定できません。仮定を置いてその事態から被曝量を想定しま しょう。最大の被曝可能性は次のような場合です。「原発が爆発を起こした当初から放射性物質を吸い込んで内部被曝をし、その後、排泄される量と摂取される 量がバランスして、測定された量になっている。」というものです。単純化されていますが、どの人もおそらくその可能性を否定することはできないでしょう。


 まず、ヨウ素131がどれほど放出したかを求めます。結果は、放射線量比で I 131/Cs137が約100(測定日315日以降の最高値)、つまりヨウ素131はセシウム137の百倍です(日本原子力開発機構 茅野政道)。

これから放出された原子の数の比が求められ、これから体内に入ったセシウム量からヨウ素量が求められます。
  
ヨウ素の体内量はおとな=1.1510110.2411011個)、子ども=0.0610110.1211011

(個)となります。
ヨウ素は甲状腺に集まりますが、主としてベータ線による被曝が深刻なので、ベータ線

による甲状腺被曝を計算します。

ICRPによれば、おとなも子どもも血液中のヨウ素の30%が甲状腺に集中するとされます(乳児はもっと高い)。甲状腺の質量をおとな20 g、子ども4 gと単純化して求めます。ここで、約90%の崩壊過程を占めるガンマ線とベータ線で概略計算を致します。ヨウ素131のガンマ線エネルギーは0.364 MeV、ベータ線エネルギーは0.606 MeVです。
 
放射線量はおとなで、16 mSv35 mSv)、子どもで42 mSv88 mSv)程度と大変高い値になります。これは尿の中にセシウム1371 Bq/リットル入っていたとした時のヨウ素被曝量です。この計算には入りませんが、ヨウ素だけに被曝した人々は相当たくさんいるはずです。特に子どもの試算値はICRPでさえも危険としている100 mSv程度もあるものです。
 既に述べたように、福島市より汚染度が低く、郡山市とほぼ同じ程度と見なされるウクライナ・ルギヌイ地区では、5年後から急増し、10年後には100人に1人の割合で小児甲状腺がんが大量に発生したことに注意すべきです。また、ベラルーシでは事故翌年からの増加傾向が確認されています。この数値は内部被曝のみの値であり、これに加えて外部被曝の効果を考慮しなければならないのが厳しい現実です。 

4安易に「大丈夫」といってはいけない
 まやかしの「大丈夫」論は被験者の健康を切り捨てる恐れがありま す。被験者は迷惑千万の被曝をしているのです。健康被害を未然に防止する最大限の防護をしてこそ、国の、あるいは東電の誠意が伝わるのです。しかし、専門 家のフリをした「専門家」がほとんど何も検討せずに、「安心論」を振りまくのは、仮にも専門家としての倫理に違反しています。
 健康被害の恐れのある市民、特に子どもにとっては重大です。試算は1 Bq/リットル の尿中セシウム137量を、合理的な最適とみられる仮定により数値を求め、計算して求めたものです。仮定数値を変化させれば値は当然変化しますが、桁数までを変わるには至りません。

実際の検査では最高17.5 Bq/リットルの子どもも含まれており、予測の結果は極めて深刻です。楽観できる根拠はありません。17.5 Bq/リットルの子どもの推定甲状腺被曝量は0.7 Sv (1.5 Sv)となり、看過できる被曝量ではありません。

ベラルーシの無くなった市民230人の臓器解剖をしたバンダジェフスキー博士の結果は、セシウム137はおとなも子どもも各種臓器内に蓄積し、子どもは大人の倍以上 になるほど蓄積量が多く、また甲状腺に蓄積したセシウム量も格段に多いのです。東大名誉教授の唐木氏の言う「子どもは代謝が早いのでセシウムは体内に蓄積 せず排出されるだろう」という推察を全く否定する結果です。
 七條和子ら氏の研究(2009年)によれば、米国が試料として持ちかえっていた、亡くなった原爆被爆者の骨や臓器の中にまぎれもなく微粒子として放射性物質が存在していることが判明しています。放射性微粒子は周囲の細胞を繰り返し継続的に打撃し、発がん等に大きな危険があることが論じられて、ICRP流に計算した被曝リスクの100倍から1000倍のリスクを内部被曝は示しているとされます(欧州放射線リスク委員会ECRR)。

子どものがんの進展は一 般に大変早く、予防医学的な立場からも、「早期発見・早期治療」が原則です。にもかかわらず、「安全」と宣言してこれで終了としては、子どもの健康被害を 拡大する恐れがあり、市民や子供のいのちの切り捨てすることにほかなりません。ベラルーシの子供のがんはチェルノブイリ事故の翌年に早くも増加を示してい ることなどを考慮すれば、年一回の検査実施体制を構築しなければなりません。

国は子どもの無料検診・無料治療制度を一刻も早く確立する必要があり、日本甲状腺学会に加入している医師たちはもちろん、全ての医師が医の良心に従い、市民が健康に生きる権利を擁護しなければなりません。

5ホールボディーカウンター(WBC

山下俊一(福島県放射線健康リスク管理アドバイザー)氏らによる、医療機関・医師の検査拒否を促す24116日付けの日本甲状腺学会宛に文書が出され基本的人権である健康に生きる権利である診察を受ける権利を蹂躙している事態は看過することができません。 

これについては、甲状腺やホールボディーカウンターの診断結果を本人に知らせること自体を拒否していることが伝えられる中で、ホールボディーカウンターについてはかねてから検出限界が高く、測定もせいぜい5分程度で済ませている実態は、内部被曝の隠ぺいに利用されているのではないかと、懸念が抱かれていました。
 それに対し初めに記した(1頁)の報道内容は、堂々と結果を公表したもので、医療陣の誠実な姿勢が高く評価できます。しかし、尿検査結果と比較すれば、歴然とした差があり、この数値を文字どおり現実の状態が反映されている結果とは見ることはできません。すなわち、

(1) 
機械としての検出限界が、尿検査の50倍~60倍と、高いことが大問題で、
(2) 
検出限界が高いことについて、率直に検討を加え、ホールボディーカウンターが尿検査以上の精度を出せない限り、内部被曝の実態調査としての機能は捨て去る必要があり、
(3)医療陣はそれらの事情を市民の健康を守る立場から謙虚に検討し誠実な対応が求められています。

前に記した尿中のセシウム137等の測定では、2,000人の小児被験者のうち約7%の141人に尿中のセシウムの検出を報告されています。ホールボディーカウンターでは、放射性セシウムの検出限界(1人当たり)250300 Bqで約6,000人中0.1%の6人が検出限界以上であったとしています。方や7%、方や0.1%70倍の開きのある測定結果です。測定対象群が同一ではないものの、両者は同様な放射能環境に曝されているとみなされる子ども集団です。この食い違いの根源は検出限界の差にあると見ることができます。
 上記、1人の一日排泄尿が1リットルで尿以外には排泄されないとした場合、1 Bq/l の濃度が子どもの身体内の(血液中の)全放射線量は約57 Bq でした。尿検査では0.1 Bq/l が確認されていますが、これから全身から出される放射線数を求めると、約6 Bqになります。これをホールボディーカウンターで計測すると仮定した場合、全身で6 Bq まで分解能がある測定をしていることに相当します。繰り返しますが、坪倉医師らのオールボディーカウンター測定では検出限界が250300 Bq であるとしています。これでは尿の測定限界の50倍から60倍の検出限界です。尿検査に適合させれば、250300 Bq以下のデータは全て廃棄することに相当します。これでは測定で検出される子どもの数が見かけ上激減するのは当たり前です。

尿検査では7%だったのに対し、ホールボディーカウンターでは0.1%しかないのは検出限界の差で理解できます。

  以前から、形だけの測定をし、ずさんな測定方法により検出限界を上げて、「測定しました、被曝したものはいませんでした」と「測定による科学粉飾」が懸念 されていましたが、結果だけ見れば、この測定例は典型的な事例です。子どもの本当の健康被害の懸念を隠す許しがたい科学的粉飾が進んでいる現状では、良心 的医療団は結果に対して十分で基本的な検討を加えない限り、「科学的粉飾」に協力させられる恐れがあります。住民の健康管理を住民に寄り添って実施しようとされている医療者は、誠実に子どもの健康を判断できる検査方法に切り替えることが望まれます。 

(以上、2012916日稿)

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